研究紹介(番号はPublicationのページと対応)

最終更新日 2013年8月20日

これまでマクロ系の緩和現象や協力現象に興味を持って研究を進めてきた。特に、長距離相互作用が働く系において見られる特徴的な性質に注目してきた。

長距離相互作用系における平均場理論の厳密性 [6,8,11,12]

 従来、長距離相互作用系の研究は、平均場モデルという特別なクラスのモデル群を主に対象としてきた。平均場モデルは、すべての要素間に互いの距離には関係なく一定の相互作用が働くとしたモデルであり、平均場理論が厳密な結果を与えることが知られている。私は距離に依存する一般の2体相互作用が働く、一般の空間次元格子上でのスピン系の統計力学を研究し、以下の結果を得た。
(i) カノニカル分布においては、単位スピンあたりの自由エネルギーは相互作用ポテンシャルに依存しない。したがって、平均場モデルの結果はいつも厳密である。
(ii) ミクロカノニカル分布[11]や、磁化を固定したカノニカル分布[6,8]のように、示量性の保存量がある場合には、熱力学的状態空間が次の三つに分けられる:
  (A) 平均場モデルの結果と厳密に一致。
  (B) 平均場モデルの予言する平衡状態は少なくとも局所安定である。
  (C) 平均場モデルの予言する平衡状態は局所不安定であり、不均一な磁化を持った状態が平衡状態となる。
すなわち、(B)のどこかで平均場理論が厳密な「平均場相」から厳密性が破れる「非平均場相」への相転移が生じる。非平均場相で見られる不均一性の空間スケールは、長距離相互作用のために系のサイズに比例し、短距離相互作用系で見られるシャープな相分離とは異なる。このように、長距離相互作用系に特有の不均一相の存在を厳密に示すことができた。以上の結果はスピンが量子スピンであっても成立する。[12]

実効的に長距離相互作用系とみなせるモデル [2,4,14]

長距離相互作用系の示す特異な振る舞いは、系の非相加性のために生じる。短距離相互作用系では通常相加性が成り立つため、特異な振る舞いは示さない。このことは広いクラスの短距離相互作用系に対して、厳密統計力学のアプローチで証明されている。しかし、系が真の平衡状態にはなく、様々な時間スケールが分離しているときに見られる準平衡状態に落ち着いているときには厳密統計力学の結果は適用できない。私はそのような状況では、短距離相互作用系があたかも長距離相互作用系のように振る舞い得ることを示した。[14]
 私が[14]で考察したモデルはスピンクロスオーバー系の研究に用いられてきたモデルであり、スピノーダル点近傍からの緩和現象のような動的性質に関しても長距離相互作用系と同じスケーリング則に従うことは我々が以前から指摘してきた。[2,4]これらの研究は、長距離相互作用系の統計力学や動力学が、真の平衡から離れている短距離相互作用系の理解に有効であることを示している。

量子開放系に関する研究 [1,3]

 非常に大きな熱浴に接している注目系の量子ダイナミクスを記述する方法の一つとして、量子マスター方程式の方法がある。私は量子マスター方程式の性質について研究し、いくつかの結果を得た。 通常、注目系と熱浴の相互作用は弱いとして、2次の摂動計算を行ない、量子マスター方程式を単純化する。我々は2次の量子マスター方程式の構造を詳しく調べ、2次の量子マスター方程式から求められた定常状態は真の定常状態と0次のオーダーでしか一致しないことを見出した。[1]すなわち、2次の量子マスター方程式から、物理量に対する熱浴の相互作用による補正を正しく求めることはできない。
 また、最近は量子開放系における非マルコフ効果の影響を解析し、系と熱浴の間に「自然な相関」と呼ぶことのできる特別な相関の仕方があることを見出し、その性質について研究を進めている。

cavity QED系のダイナミクス [13]

 私は、光共振器中に多数の原子が閉じ込められているcavity QED系の量子ダイナミクスを研究し、cavity QED系では時間に依存するHartree近似(平均場近似)が厳密な結果を与えることを証明した。[13]熱浴との相互作用は強くてもよく、マルコフ的であれ非マルコフ的であれ成立する。また、レーザーを外から照射するような時間に依存する外場が加わっていても上の結果は成立し、非平衡定常状態を調べる上でも有効である。このように、この結果は広い状況で成り立つ強い結果である。平均場近似が厳密な結果を与える理由は、光共振器中の原子同士の相互作用が、共振器内の光子の放出、吸収を媒介とした長距離的なものだからである。したがって、cavity QED系は広い意味では長距離相互作用系であり、そのような系の示す興味深い非平衡相転移現象についても研究を進めている。